9/26には近くに住む古い同年代の仲間4人で集まり、いつもの蕎麦屋で会食をしました。そこで出た話題の中で気になったのが、いち早く有料老人ホームに入居しているメンバ(A氏)から出た以下のよう経験談でした。
それは、「いろは歌の替え歌作り(注1)が一般的なAIでは苦手なようだ」ということでした。老人ホームで居住者の交流会があるそうで、そこで入居者の一人(B氏)から出た話だそうです。この話題を提供したB氏は趣味としていろは歌のいくつかの替え歌を自ら手で試行錯誤しながら作っておられるとか。
これを機にホーム内の何人かが、一般的な生成AI(Gemini,ChatGPT,Copilotなど)を使ってパソコンで替え歌作りを試みたところ、いづれも時間オーバーとなり失敗してしまい回答が得られなかったそうです。
この原因を調べてみると、Geminiなどの回答では以下の通りでした。
Q.いろは歌の替え歌はいまの生成AIでは対応できますか。
A.いろは歌(仮名47文字を重複なく1度ずつ使って作る手習い歌)の替え歌(パロディや新作)を作成することは、AIでも原理的には可能ですが、完全に成立させるのは極めて難易度が高い領域です。というのは、
(1)AIが対応可能な点としては、
➀「意味の通る文」や「七五調のリズム」を作る:文章の脈絡を整えたり、和歌や俳句のような五七五七七や五七五のリズムに合わせたりするのはAIの最も得意な分野です。
②テーマに沿ったアイデア出し:「春をテーマにした歌」「現代風の歌」といったテーマを与えて文脈を組み立てることは容易です。 一方で、
(2) AIが苦手・苦戦する点(完全な「アナグラムまたはパングラム」(注2)の難しさ)は、以下の通り。
いろは歌の本質は、「指定された47文字(仮名・重複なし)をちょうど1回ずつすべて使い切る」という厳密な制約(完全制約付きパロディ)にあります。
③ 文字カウントの正確さ:大型言語モデル(LLM)は文字を「音」や「視覚的な文字」ではなく「トークン(単語や部分単語のまとまり)」として処理するため、1文字ずつの重複チェックや漏れのカウントが苦手です。
④濁点・半濁点や歴史的仮名遣いの扱い:現代語のルールで「濁点(が、ざ等)は原音(か、さ等)と同等とみなすか」といったルールの切り替えを文字単位で厳密に守る際、途中で文字が足りなくなったり余ったりしがちです。
結論として、「雰囲気を真似た替え歌」であればAIは一瞬で非常に上手なものを生成できますが、「47文字重複なしの厳密ないろは歌」を1発で完成させるのは現状のAIでは失敗しやすいというのが実情です。なお、正解に近い替え歌を得る方法は幾つかあります(注3)。
同様に、漢字について「千字文(せんじもん)」という「重複しない1,000個の漢字」を使い、「四字一句の韻文(詩)」として意味を通わせる言葉遊びが昔から中国にあり、それの文字数を減らすなどして簡易化して漢字の習い本にした出版物が市販されていますが、現在のAIにとってはむしろ、いろは歌(仮名47文字)よりもはるかに難易度が跳ね上がるそうです。
どうやら、いま流通して重宝しているAIにも向き不向きがあるようで、得意なのは「8割程度のクオリティで素早く下書きを作ること」「パターンに沿った大量データの要約や分類」で、「100%の精度(厳密性)」「文字・数値のミクロな制御」「人間の感情・常識・因果関係の理解」が求められる処理は不得手なようです。しかし日々進化するAIがB氏に迫るのは時間の問題かもしれません。
以上はAIの不得手な面の一例でしょうが、こんなことも考えながらAIを使っていく、付き合っていく必要がありそうです。これらは人間が最終的にはチェック(人間による最終判断、最終責任)を行う仕組み(「Human-in-the-loop」といわれます)が不可欠となるのでしょうか。
(注1) いろは歌の替え歌 について
いろは歌とは、仮名47文字を一度ずつ用いて作られた教訓的な和歌です。平安時代に成立し、仮名の手本や順序表として長く使われました。
いろは歌として代表的な歌は
「いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせす」
という七五調の一首です。現代語では、おおよそ
「美しい色もやがて散る。この世は誰のものとも常ではない。さまざまな迷いの山を今日こえて、浅い夢も見まい、酔いもしまい」
といった無常観・目覚めの決意を表す内容とされます。仏教、とくに「諸行無常」を説く経典(涅槃経)との関わりが指摘され、作者は僧侶とみる説が有力ですが、特定の人物には絞りきれていません。最古の用例は11世紀の仏教書に見え、以後、「いろは」は辞書や手習い本で仮名の配列として広く使われました。
その後、この替え歌として多くの歌が作られてきました。
(注2)「アナグラム、パングラム」について
アナグラム(Anagram)は、あらかじめ決められた文字列(文字の集合)の順番を並べ替えて、別の意味を持つ文章を作る言葉遊びです。類似の意味で、アルファベットやひらがななど、特定の文字セットの全文字を少なくとも1回以上(理想的には1回ずつ)使って作る文章のことは「 パングラム(Pangram)」ともいわれます。日本語の「いろは歌」は、仮名47文字を重複なくすべて使い切ったパーフェクト・パングラムの代表例として世界的に知られています。
(注3) いろは歌の替え歌の正解に近い替え歌をAIを用いて得る方法について
以下のような方法で完全な回答に近づけられるそうです。
・制約を少し緩める
「すべての文字を重複なしで使う」のではなく、「いろは歌のリズム(七五調)と雰囲気を真似したパロディを作って」と指示すると、クオリティの高い文言が即座に生成されます。
・プログラミング(Python等)と組み合わせて作らせる
AIに直接文を作らせるのではなく、「指定した47文字を1度ずつ使って意味の通る歌を生成するPythonコード(ロジック)を書いて」と指示し、アルゴリズムで制御させることで完全なアナグラムを作成できます。
・何度も文字数をカウントさせて修正を繰り返させる
AI単体で作らせる場合は、「まず案を出し、使用した仮名の一覧をリスト化し、使っていない文字・2回以上使った文字を指摘して修正する」という作業を対話形式で何度も繰り返す(プロンプトで自己修正を促す)ことで完成に近づけられます。