2024年11月7日木曜日

ドキュメンタリ映画「新渡戸の夢」

 11/5には、大鷲神社(おおとり)での酉の市に行く途中に寄り道をして、最寄り駅が同じ坂東橋駅になるミニシアタ「ジャックアンドベティ」で映画「新渡戸の夢」を観てきました。以前に上映スケジュールを見たときから気になっていた映画です。
イメージとして、新渡戸稲造(一世代前の五千円札での顔写真で知られています)について伝わるエピソードを繋いだ伝記的な映画かなと思っていました。が、実際には、全く異なり、新渡戸が札幌農学校の教員をしていた32歳の時に、妻のヘレンさんと明治27年(1894)に創設した遠友夜学校(えんゆうやがっこう)の創立130年を記念して2024年に制作された独立配給のドキュメンタリでした。新渡戸夫妻は当時の古い写真でしか出てきません。出演は、父母世代が遠友夜学校に学んだ60~70歳の現役世代、北大で遠友夜学校の精神を引く継いで今も、貧困などの事情で教育を受けられなかった人々を支援する教育活動を続けるNPO団体や夜間中学のリーダの方々、などで、その日常の活動の様子が、社会派監督によって映像化されています。
遠友夜学校は、貧しくて学校に通えない人々のために、授業料無料、男女共学、年齢制限なし、とした私塾で、当時としては画期的でした。
幾つか印象に残ったのは以下のようなことでした。
・遠友夜学校の「遠友」は、「朋友 遠方より来る また 楽しからずや」に由来するそうです。
・新渡戸稲造、有島武郎や半澤洵(納豆菌の純粋培養を大正期に成功させ、納豆製造業の近代化に道を開いたことで知られます)らが二期生として学んだクラーク博士が学生に贈った言葉「Boys, be ambitious!」の最初の訳語は「志欲、大なるべし!」だったそうです。こちらの方が今に伝わる「少年よ 大志を抱け!」より、ambitiousに含まれる「意欲的、野心的な」の意味が含まれて力強く、明治風の名訳のように感じました。
・好んだ言葉に「Haste not Rest not」があったそうです。「急がず 休まず」です。
・新渡戸が後に遠友夜学校を再訪した時に残した言葉が「学問より実行」で、終戦年の昭和20年(1944)まで続いた遠友夜学校の跡地に今も建つ石碑に刻まれているそうです。この映画のサブタイトルの「学ぶことは生きる証」(学ぶ喜びとそれを教える優しさを重視する教育)ともつながります。また、新渡戸にとって、農学校の学びを「実行」したのが遠友夜学校だったのかもしれません。
・最後に、映画の中で繰り返される遠友夜学校の校歌です。有島武郎が作詞したそうですが、是非を明確にした、わかりやすい方針の表現に感心しました。31歳の頃の新渡戸の純粋な考え・設立の動機がうかがえます。札幌農学校の流れを汲む北大の校歌「永遠の幸」(これも有島武郎作詞です)とも通じるところがあります。
全体を通して、明治期の農学校での、専門教育に加えて重きを占めた全人格的なリーダ教育の姿を垣間見て、今の足らざるを大いに感じました。また、勝手ながら、明治期の同世代人の地道な行動力といった面で、祖父の一面をも思い出した次第です。

遠友夜学校校歌
    
    一
沢なすこの世の楽しみの
  楽しき極みは何なるぞ
北斗を支ふる富を得て
  黄金を数へん其時か
オー 否 否 否
  楽しき極みはなほあらん。

・・・(四番まで中略、「否」の事例が続きます)

    五
正義と善とに身をさゝげ
  欲をば捨てて一すぢに
行くべき路を勇ましく
  真心のまゝに進みなば
アー 是れ 是れ 是れ
  是れこそ楽しき極みなれ。

・・・(八番まで後略、「是」の事例が続きます)

( 図書カード:遠友夜学校校歌  から引用)


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